宗教文化の網の目

「宗教を信じること」が暴走しないために。偏見や差別、暴力の助長に宗教が加担するような局面を減らしたい―。一筋縄ではいかない問題を、井上順孝さんが考えます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

第18回 諸行無常なれど変化にも理(ことわり)あり

奇跡の丘が描く十二弟子 イエス・キリストの生涯を描いたパゾリーニ監督の映画『奇跡の丘』は1964年に制作された。フランスとイタリアの合作である。その中でイエス・キリストが湖で魚を漁っていたシモン(ペテロ)とアンデレに声をかけるシーンがある。イエ…

第17回 「予測する脳」はどんなとき惑わされるのか

6人のカメラマンが描き出す同一人物 2015年にキャノン・オーストラリアが行なった大変興味深い実験がある。6人のカメラマンに対して、1人の同じ人物の写真を撮ってもらうように依頼する。事前にそれぞれのカメラマンには撮影される人物について異なった情報…

第16回 カルト問題の根深さと複雑さの背景

思い込ませるのが巧みな人 だいぶ前のことであるが、バスに乗っていたら、小学校低学年とおぼしき2人の女の子がなぞなぞ遊びをやっているのが聞こえてきた。1人が「道路をものすごいスピードで走っているバスがいました。どこのバスでしょう?」ともう1人に…

第15回 故意に乱された心の行方

迫力なきイニシエーション 宗教学や人類学などでは、成人式や入社儀礼などをイニシエーションと総称する。古い集団から新しい集団への移行に伴うもので通過儀礼とも言う。元の状態から新しい状態への移行には危険が伴うから、対処する手段が必要である。また…

第14回 情動・感情は宗教的信念を守る主役

寡黙な人が急に流暢に 振り返ってみると、新宗教の信者となった人たちへの面談調査を本格的に始めたきっかけは、九学会連合*1による奄美調査に日本宗教学会からのメンバーとして参加したことである。奄美での調査は1975年から79年までの間に4回行なった。私…

第13回 「宗教2世」?「カルト2世」?

周りと違うという気づき 一口に宗教を信じているとか、信仰を持っているといっても、その程度は人によりだいぶ異なる。形だけの信者に近い人もいれば、信仰仲間への付き合い上、たまには教会や支部などに顔を出す程度という人もいる。中には信仰第一の生活を…

第12回 3人寄るのはクオラムセンシング?

文殊の知恵に必要なのは3人か 「3人寄れば文殊の知恵」はよく使われることわざである。文殊菩薩(マンジュシュリー)は弥勒菩薩(マイトレーヤ)とともに大乗経典に早い時期に登場する菩薩で、「文殊の知恵」という言葉が示すように優れた知恵を持つ菩薩とさ…

第11回 心のシンクロ現象

いっせいに光るホタルの謎 日本ではホタルは独特の情緒を喚起する生物である。童謡「ほたるこい」では、「こっちのみずはあまいぞ」と歌ってホタルを誘う。スコットランド民謡の「オールド・ラング・ザイン(Auld Lang Syne)」を原曲とする「蛍の光」の歌は…

第10回 ミラーニューロンの謎の力

ミラーニューロン説との遭遇 ミラーニューロンという言葉に初めて接したのは、ある科学雑誌の特集だった。2000年代前半であったと思うが、年月までは記憶が定かでない。ただその記事の内容から、かなり強いインパクトを受けたのを覚えている。以後ミラーニュ…

第9回 形を変える網の目

粗い目での防御 2020年の春、COVID-19の広がりが脅威となり始めた頃、ちょっとしたマスク論争が巷に見られた。通常の布マスクの目はコロナウイルスを防ぐには粗すぎるのでマスクの効果はほとんどない、と知られるようになった。そこで、マスクはつけてもほと…

第8回 善と悪がねじれるシナリオ

『聖なる犯罪者』 2021年1月半ばにポーランド映画の『聖なる犯罪者』が日本で劇場公開となった。新型コロナウイルス感染症の第3波に襲われている中での公開になったが、かなりの注目を浴びている。タイトルからいささか不穏な印象を抱く人もいるかもしれない…

第7回 陰謀論に吸い寄せられる人たち

オウム真理教の宗教法人解散命令から四半世紀 國學院大學日本文化研究所で宗教教育プロジェクトを開始した1990年頃は、宗教教育はさほど注目される研究分野ではなかった。宗教教育をきちんとやるべきだというような論調が、突然日本社会に数多くみられるよう…

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